2005/2/1
トムとジェリー
〜ファーガソン監督とヴェンゲル監督の違いを考える〜

 「なかよくケンカしなっ」。タイトルを見てこのフレーズが自然と出てきた人は、きっと30代以上かな?
 ケンカするほど仲がいいと申しますが、マンチェスター・ユナイテッドのサー・アレックス・ファーガソン監督とアーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督を思い浮かべると、どうもあの「ネコとネズミ」の名コンビを思い出さずにはいられません。
 シーズン最低2回はリーグ戦で直接対決がありますが、その試合が近付くとメディアを介した口喧嘩が始まります。話題にはなりますが、個人的にはあまりこういうの好きではないので試合だけを楽しみにしています。

 このご両人、実は似た者同士だと思います。まず、試合によって戦術を変えることはありません。調子のいい選手をピッチに出して、あとはハーフタイムで何を伝えるか、というだけの話でしょう。日頃の練習の積み重ねが、チームのクオリティの高さに昇華できているという点で、非常に評価されるべきです。

 となると、両クラブの違いは何かということになるわけですが、やはりUEFAチャンピオンズリーグでの実績になるでしょう。ユナイテッドが1999-2000シーズンのチャンピオンであるのに対して、アーセナルはベスト8がやっと。決勝トーナメントでの活躍はいまだに実現できないままです。

 この差はどこから来るのでしょう?
 個人的な見解としては、「中盤で体の張れる選手をどれくらい持っているか」の差だと思っています。
 高いレベルになると、中盤で相手にどれだけプレッシャーをかけるか、それを90分間でどれくらい持続できるかということが勝敗を分けます。そのベースになるのは、動き回れる持久力、必要な場面で攻守の「一歩」が出る瞬発力など(パッと思いつかない 笑)があげられます。
 ユナイテッドがCLで優勝した時は、キーン、スコールズ、ベッカム、バットという、運動量豊富な選手が最低でも3人は出場していました。
 一方のアーセナルは、ビエイラを中心に守備力の高いセントラルMFを配置しています。対戦相手は必然的に中央を避けてサイドから攻撃してくることが多くなります。
 ここで問われるのがサイドハーフの守備力が問われるわけですが、ここがアーセナルのウィークポイントだと思います。そして、このウィークポイントが、ユナイテッドとアーセナルの国際舞台での違いにつながっていると考えています。

 特に差が出るのが、ボールを失った時の攻守の切り替えの違いです。
 ユナイテッドの場合、前線を含め、攻守の切り替えが実に早い。ボールを持っている相手に対して、必ず誰かがアプローチします。中盤の選手がファーストディフェンダーになることで、DFには守備時に余裕が生まれます。
 一方のアーセナルは、前線(FWとサイドハーフ)はボールを奪われても下がらず、状況を見てから戻っていることが多い。それによって、後方の選手がファーストディフェンダーにならざるを得ません。それが仕事と言ってしまえばそれまでですが、これがDFラインの負担を大きくする原因になっていると思います。

 もちろん、味方がボールを奪えば前線に残ったプレーヤーが攻撃の起点になり得るわけで、相手にとっては厄介です。
 ただ、相手のサイドハーフが攻撃力の高いプレーヤーだったら。ボールを奪われにくいタイプのプレーヤーだったら…守備は受け身になります。CLに出場するチームは、タイプは違え、サイドを攻撃の起点にするチームが多い。CLのリーグ戦でいつも乗り切れないのは、こういうところに原因があるのではないでしょうか。

 また、DFラインの負担が大きくなるということは、GKの役割(特にDFへの指示や守備範囲の広さなど)も重要になってきます。これが、シーマン以降のGK問題の原因になっています。
 最近、マンチェスター・ユナイテッドが黄金期のような強さを感じませんが、これはサイドハーフの守備力が落ちたから。もちろんベッカムの移籍が大きな影を落としているわけです。
 サイドハーフはボールを取らなくても、相手のパスコース、攻撃の方向を限定するだけで、ディフェンスとセントラルMFは楽になります。その点、ベッカムはサイドハーフにとって重要な能力を持っていたということになります。

 ユナイテッドのCLでの成績も、ボスマンルール適用に伴う外国人枠の撤廃前後で違います。
 撤廃前、最も外国人枠の問題で頭を悩ませていたのが、ユナイテッドです。プレミアリーグではイギリス4地域のプレーヤーは外国人枠に含まれませんでしたが、CLでは、ウェールズ(マーク・ヒューズ、ギッグス)、スコットランド(マクレアー)、北アイルランド(ギレスピー)の選手は外国人枠でした。他にはアイルランドのデニス・アーウィンとロイ・キーン。そこにカントナ(フランス)がいたり、シュマイケルがいたり。
 そのおかげで、スコールズやバット、ベッカム、ネビル・ブラザースといったユース育ちの若手がし経験を積めたとも言えます。99年の優勝は、その集大成みたいなものでしょう。

 この二人については、持って生まれた運みたいなものもあるのかもしれません。
 ファーガソン監督だって最初から良かったわけじゃなく、カントナという才能を得てビッグクラブの基盤が作れたわけですが、彼はその操縦術が非常に上手かった。ベンゲル監督がプティを失ったのとは対照的です。オーフェルマルスもそうか。あ、アネルカもしかり。

 ファーガソン監督は核になるプレーヤーを手放していません。カントナしかり、ロイ・キーンしかり。
 ロイ・キーンはどう評価されているか分かりませんが、ゲームをよく分かっているプレーヤーです。サイドキックとインフロントキックだけであそこまで生き残っているMFも珍しい(笑)。
 特に守備時のスペースの潰し方が非常にうまい。最近中盤の底でプレーしているからか、余計にそれを感じます。本当のところ、ベッカムは手放したくなかったと思いますが、まあそれはご愛嬌ってことで。

 ベンゲル監督は日本で成功を収めましたが、結局ヴェルディには勝てず。年間チャンピオンはおろか、ステージ優勝もできませんでした。あれだけ組織力、選手個々の特徴を生かしたチーム作りができるにも関わらず、最後にはラモスに代表される「個人の発想力」の前に屈した印象が強く残っています。
 ベンゲル監督にとって、プティの移籍は本当に大きかったと思います。それはプティ自身にとっても。彼の引退を早めたのは、アーセナルから出てしまったことでしょう。プティ・ビエイラのコンビは、ヨーロッパ屈指のコンビでした。ヨーロッパの舞台では、フランス代表コンビが必要だったし、プティがいれば安定感のある戦い方ができた気がしてなりません。

 本当に不思議です。なぜアーセナルを出たいと思ってしまうのか。伝えられていない事情があるのかもしれませんね。クラブがケチということもあるのかな?
 ユナイテッドもバットの移籍を容認したというのがちょっと解せない。彼の守備力はユナイテッドには貴重だったから余計に。もしかすると、ファーガソン監督が新しいアイディアでチームを作ろうとしているのかもしれません。買い被りすぎかな?