2005/10/17
垣間見えたハーツ躍進の秘密
〜ハーツ、セルティック相手に首位を守る〜

 週末に行われたスコットランド・プレミアリーグの首位攻防戦「セルティック×ハーツ」は、注目していた通り、ジョージ・バーリー監督の手腕がいかんなく発揮された、興味深い試合となりました。

 試合経過をザッと紹介すると…
 前半13分にセルティックが先制しましたが、3分後、ロングフィードからGKとDFの連携ミスをつき、ハーツが同点に追い付きました。後半はセルティックが攻撃的な選手を投入し、ハーツゴール前に迫りましたが、ゴールは奪えず1-1のドロー。ハーツは首位を守りました。

 ハーツはセルティックの攻撃力を計算して守備的に試合を進めたと思いますが、決して前に急ぐのではなく、しっかりつないで崩そうという意識が見られました。前半はボールを奪ってからボールを早くつなぎ、フィニッシュまで持ち込んでおり、その中には決まってもおかしくないシュートもありました。決定的チャンスだけなら、セルティックよりも多かったと思います。
 後半になると、選手の能力の違いもあり、攻撃が単発に終わる場面ばかりでしたが、守備は完璧。何度か危ない場面もありましたが、セルティックの選手もゴールを決められるだけの余裕はありませんでした。

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 さて、注目していたハーツを初めて見た印象ですが、一番目を引いたのは選手たちの落ち着きぶりでした。
 セルティック相手だし、セルティックパークだし、負ければ首位を奪われかねないし…不安な要素は多々ありました。しかし、試合を通じて心理的に動じることはなく、むしろ、セルティックの選手たちが攻撃を仕掛けてくるのを待っているかのような雰囲気を醸し出していました。

 守備時の落ち着きは、トレーニングすればある程度計算できます。そのトレーニングが実を結んだ結果、9戦で6失点と結果もついてきているから余計です。実際、DFラインはスコットランド代表のプレスリーを中心に非常にまとまっており、再三セルティックにゴール前を脅かされても、最後まで集中を切らしませんでした。
 ところが、攻撃については、そうはいきません。守備は体力と集中力でなんとかなりますが、攻撃は選手個々のボールテクニックが必要だからです。

 プロですからある程度のテクニックはあるに決まっていますが、実力が上の選手と対峙する時には必ず慌ててしまうもの。判断を迷って相手に詰められてボールを奪われるというのが、「格下対格上」での図式です。
 しかし、この試合を見る限り、ハーツの選手たちに「格下」の意識は見られませんでした。中盤やFW…いや、DFも含めて、非常に落ち着いていました。
 見ていて感じたのは、「ボールを止める⇒前を向く⇒相手選手の背後を狙う」ことが、攻撃的な選手、特にサイドの選手から感じられたこと、そして、「ダメなら無理をせずボールキープ⇒味方のフォローを待ち」「ボールを奪ったらボールを持つ味方選手がパスを出しやすいポジションへ素早く動く」ことが徹底されていたことです。
 これは、できそうでできません。能力的には上と思われる選手相手には、必ずボロが出るものです。でも、この試合で、そういう場面がほとんど見られなかった。これはおそらく、シーズン前のトレーニングで攻撃の基本となるプレーを徹底し、どのように戦うかチームに浸透させたからでしょう。この数ヶ月のバーリー監督のチーム作りは、今後どこかの雑誌で取り上げられるはずです。機会があれば、また紹介します。

  ハーツはセルティックと並ぶスコットランドの勇、レンジャースに1-0で勝利しています。しかし、レンジャースとセルティックでは立場が違います。
 レンジャースはUEFAチャンピオンズリーグと平行して国内も戦っているため、コンディションやチームのテンションをどこに合わせるか定まっていません。それが、国内で格下相手に敗れたり引き分けたりといった失態につながっています。
一方のセルティックは、ヨーロッパの舞台からすでに姿を消しており、試合は国内のみです。幸か不幸か、じっくりチーム作りをする時間的余裕があります。
 そういう意味で、全勢力を国内だけに傾けているセルティックとの一戦は、今シーズンのハーツの躍進がフロックかどうかを見極めるチャンスだったわけですが、その変貌が確かなものであることをハーツは示しました。
 この引き分けで、ハーツの選手たちは自信を深めたことでしょう。年内は首位戦線に踏みとどまる可能性はありそうです。

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 最後に、先発で出場した中村俊輔選手ですが、さすがにマークがキツく、フリーでボールを持てる機会がいつもより少なかったです。先制点の起点にはなりましたが、前半の決定的シュートは本人の力みで枠に飛ばず、何度かあった決定的なラストパスを出すタイミングは相手選手の早いプレッシャーで潰されてしまいました。
 上位チームとの対戦は、年間レンジャースとの「オールドファーム」、今シーズン躍進のハーツ戦に絞られたと言っても過言ではないだけに、次回はより進化した中村選手のプレーが見たいですね。特に、プレッシャーをかけられても動じないフィジカル、守備時の1対1の強さは身に付けてほしいところ。守備は本来苦手ですが、ボールを奪えれば持ち味のテクニックが生かされるはずです。